大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)5739号 判決 1976年11月15日

原告

松崎ふぢ子

被告

戸塚勝久

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し七六万八〇九九円およびこれに対する昭和四七年八月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その六を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決第一項は、かりに執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

(一)  被告らは連帯して原告に対し六〇五万三三八八円およびこれに対する昭和四七年八月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

(一)  日時 昭和四四年三月二〇日午後六時四〇分

(二)  場所 静岡県浜松市宮竹町六四八番地先路上

(三)  加害車 普通乗用自動車(浜松五せ二一二八)

右運転者 被告戸塚

(四)  被害車 普通乗用自動車(足立五れ六九一)

右運転者 訴外松崎秀男

右同乗者 原告

(五)  態様 前記場所で一時停止中の被害車に加害車が追突したもの

二  責任原因

(一)  被告村田は加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基き本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告戸塚は加害車を運転して被害車の後方から同一方向に向つて進行中、前方に対する注意を怠つて本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基き本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  原告は本件事故のために全身打撲傷、外傷性頭頸部症候群、体幹の機能障害等の傷害を受け、昭和四四年三月二二日から同四七年二月二九日まで九九九日間東病院に入院し、その後も自宅で終日就床し医師の往診を受けている。

(二)  右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

1 治療費 一七三万六三八八円

2 付添費 二一六万二〇〇〇円

原告は前記のとおり入院中はもちろん退院後も終日就床を余儀なくされ、上肢が利かず家事はもちろん自己の日常の用さえ弁ずることができないので、原告に対する付添等のために訴外遠藤千代子、同清水初美、同尾崎良子の三名を交互に雇用し、昭和四九年一二月末までに同人らに対し合計二一六万二〇〇〇円の賃金を支払つた。

3 休業損害 一〇八万円

原告は本件事故当時千代田区神田明神社に結婚式場の式場係として勤務し一ケ月平均三万円の収入を得ていたが、前記受傷のため昭和四四年三月二一日から同四七年三月二〇日まで休業を余儀なくされ、合計一〇八万円の得べかりし収入を失つた。

4 慰藉料 一〇〇万円

5 弁護士費用 七万五〇〇〇円

四  結論

よつて、原告は被告らに対し六〇五万三三八八円およびこれに対する本件事故発生の日の後である昭和四七年八月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁および抗弁

一  答弁

(一)  請求原因一の(一)ないし(四)は認めるが、(五)は争う。

本件事故は交通事故と称する程の追突ではなく、加害車が停止と同時に被害車の後部にかすかに触れたに過ぎないものであり、人体に感ずる程の衝撃はなかつたものである。

(二)  請求原因二の(一)のうち被告村田が加害車の所有者であることは認める。同(二)は否認する。

(三)  請求原因三の(一)は否認する。

原告の主張する傷害は詐病か、そうでないとしても、原告は本件以前にも損害賠償請求の経験があり、愁訴を過大にいうことにより高額な賠償金が得られることのあることを承知していたことから、初診時に医師に過大な愁訴をなしたところ、同医師が原告の愁訴のみで初診当日五〇日間の安静加療を要するという診断をなし、原告の訴えるまま長期の入院加療を続けさせた結果による医原病ともいうべきものか、あるいは、同医師が薬剤の使用を誤つた結果によるもので、本件事故と因果関係はないものである。

二  抗弁

原告は本件事故による損害賠償額の支払として自賠責保険から治療費五〇万円、後遺障害補償二三五万円、合計二八五万円を受領している。

第四抗弁に対する原告の認否

認める。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一の事実は加害車が被害車の後部に接触したいわゆる追突時の衝撃の程度の点を除いて当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第四号証の一ないし六、一〇ないし一九、二六、乙第一号証ならびに原告および被告戸塚の各本人尋問の結果を総合すると、

(一)  被告戸塚は、加害車に父である訴外戸塚正一を同乗させ時速四〇ないし五〇キロメートルの速度で被害車の一五ないし一八メートル後方を追従して進行中、被害車が突然停止したので急ブレーキをかけて停止しようとしたが間に合わず加害車の後部に自車前部を接触させ、右接触の衝撃を感じたので直ちに下車し、被害車から下車してきた原告、原告の夫である訴外松崎秀男、および原告の長男である訴外松崎満に対し、負傷の有無を尋ね、念のため医師の診察を受けるよう、また事故の申告のため警察にも同行してもらいたい旨申し入れたが、原告らは帰りを急いでいるからといつて被告戸塚の名前と住所を聞いただけでそのまま帰京したこと。

(二)  事故当時、降雨中で路面は湿潤していたこと。

(三)  加害車は四一年型三菱コルト一〇〇〇セダン型乗用車であり、右接触のため左前照灯の左側のフロントフエンダーの真中辺りに上下幅三センチメートル、横幅二センチメートルの範囲にわたつて凹損が生じており、右凹損部分の地上からの高さは被告戸塚および前記戸塚正一が乗車した場合中心部で五九・五センチメートルであること。

(四)  被害車はマツダルーチエセダン型乗用車であり、被害車の後部にはリヤバンバー(地上からの高さは乗員三名の場合で四九センチから五五センチである。)の右端から五六センチないし六五センチの部分に横幅九センチ、上下幅四センチの範囲にわたる肉眼では識別し得ないが手指の感触によつて他の部分との違いが感ぜられる程度の異常部分と、リヤバンバーの継目にマツチの軸木を挿入することによつてはじめて確認し得る程度のわずかな歪みがあり、また、リヤパネルとトランクパネルにまたがる部分にも車体後部右側端より四八センチないし五九センチの部分に横幅九センチ、上下幅九センチの肉眼で識別することはできないが手指を当てて移動することによつて識別し得る程度のわずかな凹損が認められたけれども、他に追突によつて生じたと認め得るような損傷はなかつたこと。

以上の事実が認められる。

なお、両車の損傷部位の地上からの高さは一致していないが、急ブレーキをかけた場合車体は前部が沈むので、前記両車の損傷は本件事故によつて生じたものと考えて差し支えなく、その他前掲証拠中右認定に反する部分は措信することができず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、被害車の運転者が追突時ブレーキを踏んでおらず被害車が若干前に押し出されたとしても、追突による衝撃の程度は軽度であつたと推認されるが、被告戸塚が原告らに対し念のためとはいえ医師の診察を受けるように申し入れている点に徴すると追突の衝撃が人体に感じ得ない程のものであつたとは認め得ない。

二  責任原因

(一)  加害車が被告村田の所有であることは当事者間に争いがなく、右事実によると同被告は特段の事情のないかぎり加害車を自己のために運行の用に供していたものと認められるから自賠法三条に基き本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

(二)  前記一において認定した事実によると、本件事故発生につき被告戸塚には加害車を運転して被害車の後方を追従するに際し、自車の速度と降雨中で路面が湿潤しているという道路条件に則した安全な車間距離をとらなかつた過失が認められるから、同被告は民法七〇九条に基き本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  受傷内容および因果関係

弁論の全趣旨によつて成立を認め得る甲第二号証の二ないし九、前顕甲第四号証の一、一九、成立に争いのない甲第四号証の七、八、二〇ないし二四、東京慈恵会医科大学附属病院に対する鑑定嘱託の結果および原告本人尋問の結果を総合すると、

(一)  原告は、事故直後は前記のとおり被告戸塚から医師の診察を受けるよう申し入れを受けたが大したことはないといつてそのまま帰京し、翌昭和四四年三月二一日は休日であつたこともあつて同日も医師の診察を受けず、翌々日の同月二二日になつて東病院に通院し、追突事故で当初症状はなかつたが暫くして気分が悪くなり、頭・頸に痛みがあり吐き気がする等と訴えて同病院福家理医師の診察を受けたところ、外傷性頭頸部症候群で約五〇日間の加療ならびに安静を要するとの診断で入院を勧められたので即日同病院に入院し、安静・牽引・消炎剤・止血剤の投与等の治療を受け、次いで同年五月二九日頃から軽いマツサージを受けるようになつた。しかし、同年八月頃からは頑固な頭痛、頸部強直、流涙等の症状が続くようになり、昭和四五年頃には頸部強直、左半身のしびれ、頭痛、吐き気、流涙等の症状が固定し、用便等のほかはほとんど離床することのない状態で昭和四六年一二月頃まで二年八ケ月余り同病院に入院を続けて注射、湿布および赤外線・超短波・マツサージ等の物理療法の治療を受け、退院後も時々前記福家医師の往診を受けているが、事故後五年以上を経てなお頭痛、頸部痛、肩部痛、左上下肢がきかない、左上下肢のしびれ感、左足背部感覚障害、嘔気、左耳鳴、腰痛、体重減少の症状があり、食事程度は自分ですることができるが、衣服を着かえるにも他人の介助を要する旨訴え、外出時には頸部をコルセツトで固定していること。

(二)  しかし、右東病院で初診時に撮影したレントゲン写真によると原告の第四・五頸椎間に軽度の角状形成と第四頸椎の約二ミリの前方へのすべり、および第五頸椎体前上縁の幼若な骨棘形成像が認められるが、これは老人性変性現象によるものと考えられ、右のほかに骨折、脱臼、椎間板損傷、脊椎靱体断裂等を疑わせる所見はなく、同病院入院中にも脳・脳神経・脊髄・末梢神経の麻痺その他の障害を疑わせるような他覚的な所見・検査結果は認められておらず、他覚的な所見として明らかなものは頸椎運動の制限(これも、後記のとおり原告の意思が介在した結果である疑いが濃厚である。)のみであり、原告の症状には精神的な要素が多分に影響していることが窺われること(なお、東病院では原告に対し長期間マンニールまたはマニトンSの点滴注射を続けているが、このために原告の頭痛等の症状を増悪した疑いもある。)。

(三)  慈恵医大附属病院で実施された原告に対する諸検査の結果によると、原告は、神経学的には頸部が全く硬直して他動的に動かそうとすると強く抵抗し、両上肢についても左上肢は前方挙上約三〇度、右上肢は九〇度より各挙上不能で、他動的に挙上させようとすると頸部同様強い抵抗を示し、握力は左右とも〇で、左顔面、左胸部、左下肢の知覚低下を訴えているが、頭部には異常はなく、反射は正常で筋萎縮も認められず、運動麻痺の肢位を示すこともない。もつとも、前記運動制限についてはレントゲン写真上は頸部の前屈位、中間位、後屈位が明瞭に撮影されていて頸部が全く強直して動かないということはあり得ないという矛盾を示していることからすると原告の意思が介在しているか、少くとも原告の自発性の低下が原因であると考えられ、また、握力が〇という結果についても前認定の食事は自分でしている事実と矛盾し、左下肢がきかないという訴えについても、麻痺性肢位を示しておらず、腱反射は正常で筋萎縮も認められないという結果と矛盾している。その他、レントゲン検査上は頭蓋骨は正常であり、頸椎は後屈時に軽度前方凸の傾向と第五椎体に骨棘形成が認められるが、右変化は老化現象によるものと考えられ、外傷によると考えられるような所見はなく、脳波検査結果においても右前頭部、側頭部に棘波様所見があるが、外傷に関係する変化とは認められず、筋電図検査結果も検査に協力した筋については正常所見であり、そのほか精神状態としては神経症的傾向が極めて強いことが窺われる。しかし、当初は何ら異常がなく、暫くしてから嘔気、頸部異常感等が出現したという受傷時の症状経過は外傷性頭頸部症候群ではよく見られることであつて特に不自然な点はないこと。

(四)  外傷性頭頸部症候群とは追突等によるむち打機転によつて頭頸部に損傷を受けた患者が示す症状の総称であり、この損傷が発生するためには頸部の過伸展または過屈曲があつたという事実が必要であり、損傷の程度は加えられた衝撃にある程度までは比例するが、追突時の姿勢等にも関係し、同じ衝撃の場合は車内で正面を向いている場合よりも横に向いている場合の方が損傷の程度が軽いのが一般である。しかし、軽度の衝撃によつて損傷を起す例もないではない。右損傷によつて発生する症状は多種多彩で極めて複雑であるが、大部分は頸部軟部組織の損傷による軽微なものが多く、骨、軟骨、脊髄、脳の損傷によるものは極めて稀れであるけれども、その症状は身体的原因によつて起るばかりではなく、外傷を受けたという体験によりさまざまな精神症状を示し、患者の性格、家庭的、社会的、経済的条件、医師の言動等によつても影響を受け、ことに交通事故や労災事故等事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利がある場合には加害者に対する不満等が心因となつて症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多い。しかし、衝撃の程度が軽度で損傷か頸部軟部組織(筋肉、帯・自律神経)にとどまつている場合は、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、以後は多少の自覚症状があつても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せばほとんど一ケ月以内、長くとも二、三ケ月以内に通常の生活に戻れるのが一般であること。

以上の事実が認められ(前掲甲第四号証の二〇および原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。)、さらに、前掲甲第四号証の七、二六、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告は追突時被害車の前部座席の助手席に内側を向いて横向きに座つていたこと、原告は昭和四三年三月二三日国電内の事故により左肋骨亀裂骨折の傷害を受けて昭和四三年四月五日から同年六月四日まで栗原医院に入院し、退院後も本件事故の直前の昭和四四年三月一五日まで週一、二回同医院に通院し、右事件についても国鉄を相手に損害賠償請求の訴を提起し、その後和解をして賠償金を受領していること、および、被告戸塚は事故後原告を見舞つたこともなく、原告に対しては後記自賠責保険による弁済のほかは治療費の支払もしていないことの各事実が認められる。

以上認定の事実に前認定の追突時の衝撃の程度をあわせ考えると、本件事故による原告の受傷の程度は頭頸部軟部組織に軽度の損傷が生じたに過ぎず、適切な治療が施され、心因性要因に影響されることがなければ、通常は一ケ月以内、遅くとも二、三ケ月以内には治癒するはずのもので、器質的障害は右期間内に治癒しており、その後の症状は右受傷を契機に原告の特異な性格、初診医のした原告の主訴に基く安静加療五〇日という非常識な診断、加害者の態度、本件事故前の損害賠償請求の経験等の心因的な要素が加わつて二次的に引き起された外傷性神経症であると認められる。そこで、これらの原告の症状と本件事故との因果関係について考えてみると、右の頭頸部組織の障害が本件事故と因果関係のあることはいうまでもなく、神経症についても右受傷を契機に発現したものであり、頭頸部損傷の結果神経症となる事例は必ずしも稀れではないことは当裁判所に顕著な事実であるから、神経症に基づく症状であるからといつて直ちに因果関係を否定すべきではなく、直接の傷害の内容・程度、神経症の程度およびこれに影響を与えた諸事情に照らして相当な期間および範囲の損害については因果関係を肯定するのが相当であるところ、前認定の原告の症状経過および現症状のうちにはその存在を否定されるものも混在しているのみならず、原告が意識的に虚偽あるいは誇張して症状を訴えているのではないとしてもその大部分は原告の特異な性格に基づく自発性の減退が主たる原因をなしていると考えられるものがあること、その他前認定の初診医の言動、治療の適否、加害者である被告の態度等原告の神経症の発現に影響をおよぼしたと考えられるが、原告側のものとはいえない事情を考慮すると、本件においては事故後三年間である昭和四七年三月二〇日までの間に発生した損害のうち六割の限度で本件事故との相当因果関係を認め、その限度においてのみ被告らに賠償責任を負担させるのが相当である。

四  損害

(一)  治療費 一七三万六三八八円

成立に争いのない甲第五号証の一、二、弁論の全趣旨によつて成立を認め得る甲第三号証の二、三および弁論の全趣旨を総合すると、昭和四七年三月二〇日までの原告の治療費としては、その主張の一七三万六三八八円を下らない額を要したものと認められる。

(二)  休業損害 一六六万八七七七円

原告本人尋問の結果に前認定の原告の症状および治療経過とをあわせ考えると、原告は大正五年六月一八日生れ、本件事故当時五二歳の主婦であり、家事をとる傍ら神田明神社の結婚式場に式場係として不定期的に勤務していたところ、本件事故のために事故の翌日である昭和四四年三月二一日から三年以上右勤務を休業し、その間家事もとることができなかつたものと認められるから、昭和四四年三月二一日から昭和四七年三月二〇日までの間、同年齢の女子平均賃金相当の休業損害を蒙つたものと認められる。ところで、労働省発表の昭和四四年から昭和四七年度までの各賃金構造基本統計調査報告書によるとパートタイムを含む全産業・企業規模・学歴計の五〇歳から五九歳までの女子労働者の平均賃金は昭和四四年度が四五万六六〇〇円、昭和四五年度が五四万三三〇〇円、昭和四六年度が六一万四九〇〇円、昭和四七年度が七〇万四八〇〇円であるから、右平均賃金を基礎に原告の休業損害の額を計算すると別紙計算書のとおり一六六万八七七七円となる。

なお、原告は休業損害のほかに付添費損害二一六万二〇〇〇円を主張し、これにそう証拠として甲第七号証の一ないし一〇四を提出しているが、前認定の原告の症状に照らすと原告に付添の必要性があつたとは認め難いのみならず、右証拠の形状および記載内容、ことに昭和四四年と昭和四九年では一般の賃金水準は二倍以上のひらきがあるのに原告が支払つたとする付添人に対する賃金は昭和四四年から昭和四九年までの間一五〇〇円ないし二〇〇〇円とほとんど変つておらず、しかも、昭和四四年当時女子の素人の付添人ないし家事手伝人(右証拠記載の氏名から原告が雇つたという付添人ないし家事手伝人の一部は原告の親族ないし縁者であると推認される。)に一日当り二〇〇〇円を支払つたとすると一般の賃金水準に比して異常に高額であり不自然であることに鑑みると、右証拠に記載されたとおりの賃金が現実に支払われたものとはにわかに断定し得ないので、右付添費損害は認め得ないけれども、弁論の全趣旨をあわせ考えると右付添費損害の主張には原告が本件事故のために家事をとり得なかつたことによる損害の主張も含まれていると解されるので、前認定の休業損害額は原告主張の休業損害額をこえることになるが、右休業損害額と原告主張の付添損害額の合計額の範囲内であるので、右のように認定しても弁論主義には反しないものと解する。

(三)  慰藉料 二五〇万円

前認定の原告の受傷内容、症状および治療経過、その他本件に顕れた諸般の事情(右症状に原告の性格等原告側の事情が寄与した点は除く。)を考慮すると、本件事故によつて原告が昭和四七年三月二〇日までに受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては二五〇万円をもつて相当と認める(なお、慰藉料については認容総額が請求額をこえないかぎり原告の主張額に拘束されないと解する。)。

以上のとおりで原告が昭和四七年三月二〇日までに受けた全損害は五九〇万五一六五円となるところ、前記三において認定したとおり右のうち六割の限度において本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当であるから、被告らが原告に賠償すべき額は三五四万三〇九九円(円未満切捨)となる。

五  損害の填補

原告が自賠責保険から損害賠償額の支払として二八五万円を受領していることは当事者間に争いがない。

六  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、相当額の報酬等の支払を約したものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと原告主張の弁護士費用の額七万五〇〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

七  結論

そうすると、原告の本訴請求は被告ら各自に対し七六万八〇九九円およびこれに対する本件事故発生の日の後である昭和四七年八月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

計算書(円未満切捨)

456,600円×285/365+543,300円+614,900円+704,800×80/366=166,8777円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例